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執筆者の写真Aiki Hamakaze

隻手音声(上)

 今年も思いつくまま、つらつら書いていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 「せきしゅおんじょう」と読むのだそうです。隻手とは片手のことです。言い方を変えればご存じの方もいっしゃるでしょう。 

 

 「パンッ!(手を叩く音) この音は、右手の音か、それとも左手の音か」 

    

 先日、稼業の役得で、ちょいといいお店でお昼をいただきました。その帰りに仲居さんが「お気を付けて」と私の背中に向けてカチカチと火打石を打ってくれたのです。池波正太郎や藤沢周平に親しんだ私は、もう大コーフンです!そもそも、火打石というものを初めて目の当たりにしたのですから。 

  

 「ちょっとソレ貸して!どうやんのコレ??こうか?こうかっ!? (カチッ、カチッ、)ホンマに火花出るやんっ!ウッヒョウ~」 

 

 すみません、ハァハァ・・取り乱しました・・。 

 これは、「切り火」という伝統的な邪気払いの風習です。江戸の火消しのカミさんが亭主の背中に向かって「アンタッ、気張るんだよ!(カチッ、カチッ)」というアレです。テレビで時代劇がめっきり少なくなった昨今、若い方は知らないでしょうね。 

 

 実は、このレアな体験にコーフンしつつも、私はどうも釈然としませんでした。「火打石って・・こんなんだっけ?」早速調べてみました。そして、長年に渡る勘違いに気づいたのです。 

 

 私は、火打石というのは、火打石という鉱物同士をぶつけて火花を発生させるものだと思っていたのです。ところが、仲居さんから手渡されたそれらは、白っぽい鉱物(石)と輪っか様の鉄の塊のセットだったのです。 

 

 「ちょいと姉さんよう・・こいつァ~、伝統的ないわゆる火打石のセットってヤツでちげぇーねぇかい?」(平蔵風) 

 「ハイ、お頭(かしら)、ごく普通の火打石ですけど・・」(妄想) 

 

 私が迂闊でした。自然界にある鉱物同士を打ち合わせて火花が出りゃあ火盗(※1)いらねえっつーんだよ!んなモンがまかり通りゃあ、三内丸山(※2)で産業革命が起きていやがるってなモンよ、このスットコどっこい!! 

 

 

 ハァハァ、すみません、また取り乱しました・・。 

 火花だろうが炎だろうが、その現象は「燃焼」です。燃焼には「燃料」と「酸素」と「発火温度」が必要になります。自然界にある鉱物は、そのほとんどが安定物質であり、なまなかなことでは酸化・燃焼しません。炭素を多く含んだ人工物である鉄は、自然界の鉱物に比べて格段に酸素と結びつきやすく、燃焼し易いのです。 

 

 つまり、「火打石」というのは、「火花を発する石」ではなく、「火花を発生させるために鉄を穿つ道具」なのです。火打石によって発生する火花の燃料は、石ではなく鉄だったのです。 

 

 火打石に過剰な神秘性を抱いていた私は、「なーんだ、それじゃあ効率の悪いファイヤースターター(※3)じゃん・・」と、ちょっとがっかりです。 

  

(下に続く) 


  

※1 火盗:火付け盗賊改め方(火盗改メ )・放火や強盗などの凶悪犯罪を取り締まる江戸の警察組織 

※2 三内丸山遺跡:青森市にある縄文時代前期~中期の大規模集落遺跡 

※3 ファイヤースターター:棒状のマグネシウム。ナイフなどの金属片で擦ると盛大に火花を発する 

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