10%のボヤキ (後編)
- Aiki Hamakaze
- 5 時間前
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左上右下(さじょううげ)と言うそうでして、日本はそもそも左を上位とする文化です。
記紀によると、八百万の神々の最高位であるアマテラスは、国生みの神イザナギの左目から生まれたとされているからです。
舞台から見て左側を上手(かみて)、右側を下手(しもて)と呼びますし、右大臣よりも左大臣のほうが格上です。魚料理は頭(かしら)を左にして盛り付けられ、神道の影響が色濃い合気道でも当然ながら師範は上手を占めるものです。袴のヒモも左側の紐を右側の紐の上に重ねていくのが正式な着付けです。
左上位と言っても「左利きがエラい」のではありません(ぐぬぬ‥)。欧米は右上位の文化であり、国際儀礼も右上位(例:オリンピックの表彰台)とされています。中国では時代によって違うようですが、日本に大きな影響を与えていたころは右上位の文化だったようです。「右に出る者はいない」や「座右の銘」といった慣用句は、右上位の渡来文化の名残だそうでして、現代社会には右上位と左上位の文化が混在しているのです。結婚式では通常、新郎は新婦の右側にいるものですが、雛人形のお内裏様は左側です(関東では逆)。
左上位の文化であっても、武芸の世界ではそればかりを優先していられません。自分の命を預ける武器は利き手で使う、というのはどうしようもない原則です。弓は右手で引く、剣は右手で抜く。槍や薙刀は、左手を前に構える「左中段」が基本の構えですが、これはその操法において後ろの右手のほうが重要であるということです。

杖や薙刀は、左右の手を入れ替えて右前・左前と柔軟に構えを切り替えながら使えますが、剣や弓は常に右でしか使わないというのは不思議なことです。剣道でも二刀はオッケーなのに左手を前にして竹刀を持つことは事実上禁じられていますし、古流の剣術や居合でも左手を前に構える技というのは聞いたことがありません。
「合気道は、左右の技を稽古するので体のバランスが良くなります」というのは合気道のありがちなPR文句ですが、徒手の技は左右稽古するのに剣や短刀、杖になると途端に右手優位の使い方しかしなくなるというのは残念なことだと思います。

モンゴル帝国は、その優れた騎射術によって人類史上最も広大な版図を陥れましたが、日本のように右射ちだけでなく左右どちらでも同じくらい扱えるよう訓練されていたそうです。素人考えでも、そのほうがより戦闘の役に立つことは明白です。日本では敵を制するために、様々な武器術や徒手格闘術が変態的なまでに発展してきた歴史があるにもかかわらず、どうしてその不合理なルールだけは律儀に守られてきたのか・・とやや呆れてしまいます。元寇のときも、集団戦法の蒙古軍に対して侍たちは「やあやあ、我こそは‥」と一騎打ちを挑んだという話は有名ですが、日本人には合理性よりも何か不合理な精神性を重んじてしまう性質があるのかもしれません。それが絢爛たる文化の発展に寄与することもあれば、合理主義に蹂躙される要因ともなってしまうことは、その歴史において明らかです。
現代のさまざまな競技においても、サウスポーというのはちょっとトリッキーで厄介な相手だというニュアンスがあります。もちろん、左利き対策というのも同時に発達しているわけですから、左利きというだけで自動的に大きく有利となるわけではありませんし、競技によってもその有利・不利には程度があります(※)。しかしながら単純にその割合を考慮すると、左利きは右利きの相手に慣れていますが、右利きは左利きの相手に慣れていない場合が多いはずです。これはやはり勝負において有利であると言わざるを得ないでしょう。
私も、禁忌とされていようがめげずに左の技を大いに鍛錬して「左利きが転生したら無双してウハウハな件」というラノベを書こうと思います。(Z)
(※)テニスの世界上位ランカーの左利き率は10%。フェンシングのそれは50%以上という統計がある
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