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無敵とは

  • 執筆者の写真: Aiki Hamakaze
    Aiki Hamakaze
  • 5月17日
  • 読了時間: 2分

人生で一度だけ、ある女性に「一目惚れ」したことがあります。


それは数十年前、私が就職したばかりの頃の話。 ある朝、京浜急行の某駅で電車を待っていた時のことでした。


駅構内は朝のラッシュ。人で溢れ返り、ちょっとしたカオス状態です。私はあまりの混雑と朝の気だるさで、ぼんやりと立ち尽くしていました。


そんな静かな熱気の中、突如として怒鳴り声が響き渡りました。


「ここでタバコを吸わないで!!!!」


驚いて顔を上げると、反対側のホームで一人のお婆さんが、鬼の形相でこちら側を睨みつけています。その視線の先にいたのは、中年のサラリーマン風の男性。彼の手には、火のついたタバコがありました。


当時はまだ駅構内での喫煙が許されていたものの、規制が徐々に厳しくなっていた時代。ホームに灰皿はあっても、ラッシュ時は禁煙と決まっていました。


お婆さんは、さらに声を重ねます。


「子供たちも見てるよ!ここで吸わないで!」


周囲の空気は一瞬で冷え込みました。「なんて非常識な男だ」「迷惑だな」……。 大勢の冷ややかな視線が、針のように男性に突き刺さります。彼はその場で「絶対的な悪」となり、言い逃れのできない四面楚歌の状態に陥りました。


男性はバツが悪そうに、渋々と灰皿へタバコを押し付け、火を消しました。


その直後です。またもお婆さんの大声が響きました。


「ありがとう!」


その一言が放たれた瞬間、駅構内の空気が魔法のようにガラリと変わりました。


先ほどまで「うるさい老婆」に見えていた彼女は、一瞬で「正義のヒーロー」へ。 そして「常識のない男」だったはずの彼は、「注意を素直に聞ける良い人」へと、周囲の評価が塗り替えられたのです。


責め立てるような険悪なムードは消え去り、そこには二人を称賛するような温かい空気だけが流れていました。


もはや、その場所に「敵」など一人も存在しなくなったのです。 これこそが、本当の「無敵」なのだと鳥肌が立ちました。



私はそのお婆さんの鮮やかな振る舞いに、完全に一目惚れしてしまいました。「師匠、ついていきます!」と彼女のいるホームへ飛び移りたい衝動に駆られたほどです。


今でも彼女を思い出すたびに、自分に問いかけます。 「無敵とは、敵を作らないこと」


この気づきは、現在も私が合気道を稽古する上での大切な指針となっています。(N)



 
 
 

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